発達障がいのこどもで手が出るのはなぜ?言葉よりも先に手が出るこどもの対処法
カッとしたり、かんしゃくを起こしたりしたとき、すぐ手が出るこどもさんがいます。
・注意をするとイライラして親御さんや先生のからだを叩いてしまう
・お友だちが遊んでいるおもちゃを無言で強引に取ってしまう
このように、言葉よりも先に手が出るこどもは、反抗期の場合もあれば、性格的にがさつで荒っぽいと言われがちです。
とくに、小学生になっても手が出るこどもは、発達障がいによる症状の現れの可能性があります。
そのままでは、集団生活でなじめないばかりか、社会的に不適切な行動でさまざまな支障をきたします。
そこで今回は、発達障がいのこどもの手が出る問題について考えていきましょう。
なぜ発達障がいのこどものなかに、すぐに叩いたり、蹴ったりするこどもがいるのでしょうか。
また、言葉よりも手が先に出てしまうこどもにはどのように対応すればいいのでしょうか。
「手が出る」のはどんなとき?
言葉よりも先に手が出るこどもは、どのようなときにカッとなって乱暴な行動を取ってしまうのでしょう。
理由として考えられるのは、主に次の2つのポイントです。
・気持ちや感情をうまく言葉で表現できない
・自分がしたいことを言葉で相手に伝えられない
1.気持ちや感情をうまく言葉で表現できない
言葉が未発達のこどもの場合、言葉の表現力や語彙が乏しいため、うまく自分の気持ちとマッチする表現を見つけられないことがあります。
本当は「Aくん、一緒に遊びたい!」と言いたくても、とっさに言葉が出てこない代わりに、相手を叩いて自分の気持ちを伝えようとしてしまうのです。
手が出るのは、相手が嫌いや苦手な状況に対してだけではありません。
相手のことが好きだったり、一緒に遊びたいと思ったりしたときも、その気持ちをダイレクトに伝える手段として相手を叩く、腕をつかむ、などの荒っぽい行動をしてしまうのです。
2.自分がしたいことを言葉で相手に伝えられない
お友だちが持っているおもちゃで遊びたいとき、いくつかのプロセスがあります。
まず、相手に声をかける、表情や雰囲気を観察する、おもちゃで遊びたいことを上手に伝える、相手の反応をキャッチして行動を決める、など想像以上に複雑なやりとりをしなければなりません。
こどもにとって、相手の気持ちをくみ取ったり、相手にOKをもらうために丁寧な表現を選んだりするのは、ハードルが高いことです。
自分の要求をこうした一連のプロセスを取らなければいけないものの、どうやって伝えればいいのか言葉で表現できないと、パニック状態になって手が出る場合があります。
すぐ手が出るこどもの中で何が起こっているのか
言葉よりも先に叩く、蹴るといった手が出るこどもは、なぜ突発的に乱暴な行動をしてしまうのでしょうか。
最大の問題は、他者とのコミュニケーションや対人関係を築く上で大切なソーシャルスキルで問題を抱えているということです。
ソーシャルスキルとは、あることをしたいときには社会でうまくなじめるようにテクニックのこと。後天的に身につけるものです。
たとえば、「人にはやさしく」という言葉を知識として知っていても、やさしくするとは何か、具体的にどういったシーンでやさしくすればいいのかがわからず、行動に移せなければ意味がありません。
ソーシャルスキルは知識ではなく技術やテクニックであるといわれる理由です。そのため、言葉でいくら指導や注意しても、こどもは本当に理解してソーシャルスキルを身につけることは困難です。
日常生活のさまざまなシーンでトレーニングを積み重ねて、スキルを身につけて磨き続けるしかありません。
実際に言葉よりも先に手が出てしまうこどもには、次のような特徴があります。
・相手を叩く、蹴るなどの衝動的な暴力行為以外の適切な行動を学んでいない
・これまで、叩く、蹴るなど荒っぽい行動をすれば自分の気持ちや要求が伝えられたことが何度もあって、誤った学習をしてしまった
・叩く、蹴るなどの行動と、言葉による表現との違いがよくわかっていない
・ソーシャルスキルが身についていないので、自分の気持ちを言葉で表現する、相手の都合を聞いて行動を決める、といったスキルが低い
・相手からの反応によって感謝を伝えたり、断られたりするときに自分の気持ちを抑えるテクニックが身についてない
このように、すぐに手が出るこどもの背景にある理由を見ていくと、乱暴な行動に代わる言葉による表現や気持ちの観察、切り替え方などの行動のレパートリーが限られていることがわかります。
そのため、何か自分の気持ちや要求を伝えるときは、すべて手が出る行動で解決するように誤った学習が定着したといえるでしょう。
自閉症スペクトラム障がいのBくんのケース
4歳になって幼稚園に通い始めたBくん。
お母さんとおうちで一緒に過ごしていた頃は、素直で穏やかに遊ぶ性格でした。しかし、幼稚園に入ると、朝の準備がとても遅かったり、幼稚園に行き渋ったりすることが増えて、お母さんはBくんに強めの言葉や態度で声掛けするようになります。
ときには、かんしゃくを起こしたり、注意してもこちらを向かなかったりすることも増えました。Bくんのお母さんは、年齢的に反抗期かもしれないと思っていたそうです。
そんなとき、幼稚園の先生から、「友だちに手が出ることが多い」「みんなで一緒に活動するときも、ずっと自分の遊びに夢中になっていて集団行動になじめていない」と連絡がありました。
そして「一度、発達相談でお話ししてみてはいかがでしょうか」とアドバイスを受けました。
Bくんのお母さんが行政の発達相談の窓口でこどもの様子を伝えると、発達障がいの可能性を指摘されます。
そして、専門医から「自閉症スペクトラム障がい」と診断されました。
自閉症スペクトラム障がいの特徴
自閉症やアスペルガー症候群などかつて別々の診断名だったものを、最近「自閉症スペクトラム障がい」としてまとめられました。
自閉症スペクトラム症は、こだわりが強い、コミュニケーションが苦手、といった特徴を持つ発達障がいの一つです。
コミュニケーションが苦手でこだわりが強いといった二つとの傾向が合わさると、とっさのときに衝動的な行動を取ってしまうことが増えます。
コミュニケーションが苦手なこどもは、自分の気持ちや要求を相手にうまく伝えられません。
また、相手の気持ちやその場の状況や空気をキャッチするのも苦手なので、周囲から浮く行動を取ってしまいがちです。
さらに、不安感が強くちょっとしたことでも神経質になってしまうのも発達障がいのこどもに少なくありません。
相手のこどもは「一緒に遊びたいから、ちょっとそのおもちゃを貸して」と好意的な気持ちで近づいても、不安感が強い発達障がい、とくに自閉症スペクトラム障がいのこどもからすると「自分のおもちゃを取ろうと思っているのかもしれない」「自分のペースで遊んでいるのを邪魔されたくない」など、相手の言葉や態度がすべてネガティブなものに感じられてしまいます。
そこで、自分の身を守るために、発達障がいのこどものなかには、とっさに手が出るこどもが少なくありません。
こうしたとっさに手が出てしまう行動は、幼稚園や保育園に上がる頃には少しずつ消えていくものです。
しかし、発達に偏りのある発達障がいのこどもの場合、脳の発達のペースに個人差が大きいため、年齢に比べて乱暴が残りやすくなります。
発達障がいのひとつであるADHD(注意欠陥・多動性障がい)のこどもで、すぐに手が出る場合があります。
ADHDのケースでは、さまざまなことに興味があるため、おともだちが遊んでいるところに割って入った結果、叩く、蹴るといった反射的な行動をしてしまうケースが少なくありません。
自閉症スペクトラム障がいでもADHDでも、発達障がいの特性からすぐに手が出るだけで、本人の性格に問題があるわけではありません。
わざと相手を叩いたり、悪気があって蹴ったりしているわけではないことがベースにあります。
手が出るこどもにおすすめの対応法
衝動的に手が出てしまうこどもに対して、叩く、蹴るを我慢させて抑え込む指導をしても根本的な解決にはつながりません。
叩く、蹴るではない社会的にマッチする行動のレパートリーを増やしていくアドバイスが必要です。
乱暴な行為で解決してきた経験が積み重ねれば、それが正しい行動パターンだと学習してしまいます。
しかし、実際にはもっと別の行動のしかたがあること、相手の状況に応じて行動のレパートリーを増やす大切さを指導することが大切です。
①行動のレパートリーを増やす
発達障がいのこどもは、行動パターンが限られている場合が多く、同じ行動パターンを繰り返しがちです。
たとえば、友だちと遊びたいからと「遊ぼう」っと声をかけても、うまくいかないこともあります。
コミュニケーションの上手なこどもの場合、もし一つのグループの輪に入れてもらえなかったとしても、行動のレパートリーをいくつも持っているのがポイントです。
・他のグループに行って声をかける
・遊びたいグループのそばで様子を見ながら輪に入るチャンスを見計らう
・グループでゲームをしていた場合であれば、ゲームとゲームのタイミングで「一緒に遊びたい」と声をかける
・グループみんなが笑っているときに入る
・声をかけやすそうなおともだちを見つけて、しゃべりかけたり、肩を軽く叩いたりしてて仲間に入れて欲しいと伝える
・ダメなときでも「じゃあ、また今度遊んでね」と伝える
つまり、一度グループに入れてもらえなかったとしても、次から次へと代わりになる行動のレパートリーを持っているのです。
人はチャンスが増えるほど、未来に希望を持てます。
一度や二度断られても、次の行動に移れるので、グループから嫌がられたり、拒否されたりしたといったネガティブな感情を持たなくて済むのです。
最初からグループに入れなかったからといって、乱暴な行動を取ってしまうワンパターンな状態から、行動のレパートリーを増やすトレーニングをする必要があります。
②手が出るきっかけになる刺激から予防する
不安感の強い発達障がいのこどもは、過去のネガティブな出来事の嫌な感情をずっと引きずって暮らしています。
たとえば、一度喧嘩したおともだちを見ると、ずいぶん経ってからもそのときの不快感が蘇って、突発的に手が出る場合も少なくありません。
しかし、言い換えれば、不安感を刺激するようなきっかけがなければ手が出てしまう乱暴な行動も起こらないことになります。
発達障がいのこどもは、感覚過敏やコミュニケーションスキルの低さが引き金でかんしゃくを起こすケースが大半です。
そのため、光や音などの環境から影響を受ける刺激や、コミュニケーションや対人関係でネガティブなきっかけになるものをできるだけ取り除くように心がけましょう。
③褒めてあげる
いつもなら手が出てしまっていた状況で手が出なかった、別の行動パターンで対応していた、といったときは、しっかり褒めてあげましょう。
行動のレパートリーを増やして、日常生活で手が出るきっかけを取り除く対応をした結果、こどもの乱暴な行動が減っていっているときを見計らって褒めてあげれば、ポジティブな学習として身につきます。
また、親御さんが褒めてくれると自信になるだけでなく、安心感からこどもの気持ちも落ち着くからです。
まとめ:発達障がいのこどもで手が出るのはなぜ?言葉よりも先に手が出るこどもの対処法
幼稚園や小学校に入るぐらいの年齢になっても、何かにつけて手が出るこどもは、発達障がいの特性が原因になっているかもしれません。
自閉症スペクトラム障がいやADHDなど発達障がいを抱えるこどものなかには、おともだちを叩く、蹴るといった乱暴な行動を取ってしまうこどもがいます。
もし、家庭でかんしゃくが続いたり、幼稚園や小学校ですぐに手が出るといった場合は、市区町村の発達相談を訪れてみましょう。
また、小児神経科や発達外来など専門医に相談するのもおすすめです。
発達障がいの診断を受けたり、グレーゾーンの可能性を指摘されたりしたときは、こどもの手が出る行動をソーシャルスキルトレーニングなど社会的にマッチする行動に代えていく必要があります。
社会的スキルやコミュニケーション力は、集団行動を通して学ぶ側面が強いからです。
発達支援をおこなっている放課後等デイサービス(放デイ)のなかには、発達障がいのこどもにソーシャルスキルトレーニングを提供している施設があります。
吹田のこどもプラス大阪では、人間関係の築き方や維持の仕方をはじめ生活のシーンで大切なソーシャルスキルを日々の活動を通してトレーニング。
社会的に不適応な行動を切り替えるサポートを続けています。
こどもがすぐ手が出てしまうと悩んでいるときは、ぜひ一度こどもプラス大阪にご相談ください。
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