発達障がいのあるこどもに「エビリファイ」で癇癪がよくなる?リスパダールとの違いや薬の特徴・副作用
発達障がいのうち自閉症スペクトラム障がい(ASD)のこどもで癇癪(かんしゃく)が出やすい場合があります。些細なきっかけで癇癪が起きると、収まるまでなかなか時間がかかって困っている、といった親御さんは少なくないようです。
癇癪を起こしやすいこどもの対応で悩んでいる場合、病院でエビリファイと呼ばれる薬を紹介されることがあります。そこでこの記事では、ひどい癇癪を薬の効能で改善できる抗精神病薬のエビリファイについて、薬の特徴や副作用、リスパダールとの違いを中心に紹介します。
エビリファイは大人からこどもまで使われる抗精神病薬
エビリファイは抗精神病薬の一種で、精神科や心療内科、小児精神科などで処方される飲み薬です。一般名をアリピプラゾールといい、統合失調症やうつ状態、躁状態の改善などに効果が期待できます。
以前は大人向けの抗精神病薬でしたが、2016年にこどもにも使えるようになりました。お子さんで自閉症スペクトラム障がい(ASD)の特性によって医師の判断で処方できます。
エビリファイは感情の波が極端に激しい状態に効果的
こどもの場合にエビリファイが適応症となったのは、自閉症スペクトラム障がいの易刺激性に対してです。
易刺激性とはあまり聞き慣れないかもしれません。具体的には、ちょっとしたことで突然イライラしたり、怒りや哀しみの感情がエスカレートしてしまう状態をいいます。易刺激性が強まると、極度の癇癪を起こしやすくなるほか、周囲に対して暴力や暴言をふるうような攻撃性が高くなる、反対にこども本人が自傷行為をしてしまう、といった症状が現れます。発達障がいのなかでもASDでよく見られる症状で、こどもも何物かに操られているような感覚となって自分でコントロールができないことが問題です。そのため、日常生活や社会生活がうまくいかずに孤立してしまう原因にもなります。
日常生活に支障をきたす状態を改善して、生きづらさを和らげる効果がエビリファイには期待されます。
エビリファイの特徴と飲み方
ここからは、エビリファイの基本的な情報を紹介します。
エビリファイの特徴とメカニズム
易刺激性を軽減するエビリファイは、1988年に大塚製薬が開発した薬です。2002年にまずアメリカで統合失調症治療薬として承認されて以後、世界的に抗精神病薬で使われています。
エビリファイのメカニズムは、脳内のドーパミンをコントロールするものです。ドーパミンホルモンは脳内で快感や興奮を与える神経伝達物質のひとつですが、過剰に放出されると癇癪や攻撃的、自傷行為といったASDの特性で見られるような症状が強く現れます。そこでエビリファイは、ドーパミン量が多すぎるときは抑制し、反対に少なすぎるときはドーパミンを放出するように刺激をして、脳内でバランスを取る働きをします。こうしたメカニズムで、脳内のドーパミンのバランスが一定に近づいて精神的に安定する効果が期待できます。
エビリファイの飲み方
エビリファイは、1日1回、飲み薬で服用します。1日1mgからスタートして、1日あたりの最大量は15mgです。医師はこどもの状態を診察しながら、1日あたり最大3mgの範囲で増量します。
なお、エビリファイは原則6歳以上18歳未満の小児期のASDの症状に対して用います。小さなお子さんのなかには錠剤が苦手な場合があるため、液剤タイプも用意されています。
エビリファイの副作用や注意点
エビリファイの副作用には、次のような症状が報告されています。
・強い眠気、過眠傾向
・不眠傾向
・起立性低血圧
・めまい
・神経過敏
・のどの渇き
・不安
・アカシジア(じっとしていられない)
・手足の震え
・高血糖
・よだれが出る
・体重増加
・注意力や反射神経の低下
服用中にこうした副作用が現れたときは、医師や薬剤師に相談してください。
また、エビリファイを飲んでいるときは、次のポイントに注意が必要です。
・眠気や注意力の低下が起こる場合があるため、運転や歩行、移動に気をつける
・アルコールは薬の働きを強める場合があるので注意する
・病的な性欲や衝動買い、暴飲暴食や衝動が抑えられないといった社会生活に影響を及ぼす症状が現れる場合があります
このように、エビリファイは医師の指示のもと、正しい飲み方で服用しなければならない抗精神病薬です。用量や用法を守って、定期的に医師の診察を受けながら症状の軽減を目指すことが大切です。
エビリファイは眠気を利用して症状をコントロールしている?
エビリファイの副作用のひとつ、眠気はこどもによって強く出る場合があります。過眠傾向がつづいて生活リズムが乱れる可能性もあるため、服用には注意が必要です。
医師によっては、小児のASDの症状にエビリファイを使用するのは慎重に考えるべきといった意見も見られます。成人の場合、長期的にエビリファイを使用すると3割以上の確率で不随意運動が起こることや、4歳以下のこどもの治験データがないこと、などが理由です。
また、薬を使用することで、発達障がいの特性が見えづらくなり、環境の調整や生活スキルを身につける機会をなくしてしまう心配もあります。もともとこどもは感情のコントロールが未熟で、癇癪やイライラを起こしやすいもの。日常生活に支障をきたすほどの症状ではあっても、エビリファイのような抗精神病薬以外に学校や家庭でのサポートを工夫したり、子どものストレスを解消したりするようなアプローチも大切でしょう。
例えば、家庭で夫婦間のDVが続いていたお子さんが、離婚や別居など日常的にDVから離れた結果、症状が落ち着いたケースもあります。発達障がいやグレーゾーンかもしれないと思っていたものの、実際は家庭でのストレスでこどもに大きな負担が掛かっていた例です。
強い眠気をはじめさまざまな副作用もあり得るエビリファイ。学校や家庭での接し方を見直したり、発達支援を利用したりしながら、医師と相談して慎重に服用を判断することが大切でしょう。
リスパダールとはどう違うの?
リスパダールは、自閉症スペクトラム障がい(ASD)によく見られる癇癪や衝動性、うつ状態といった症状の軽減が期待できる抗精神病薬です。成人の統合失調症治療薬としてよく処方されているほか、エビリファイと並んで小児のASDにも使われるケースが増えています。
リスパダールの特徴とメカニズム
では、エビリファイとリスパダールはどういった違いあるのでしょうか。
エビリファイもリスパダールも脳内の神経伝達物質に働きかけてASDの症状をやわらげるしくみは同じです。ただし、エビリファイはドーパミンに作用しますが、リスパダールはドーパミンと合わせてセロトニンにも作用する特徴があります。一般名をリスペリドンというリスパダールは、ドーパミンにだけ作用していた古いタイプの抗精神病薬を改良してセロトニンにも働きかけることで、効果を高めることができます。
また、原則6歳以上から服用できるエビリファイとちがって、リスパダールは5歳から使用可能です。こどもの体重に合わせて医師の判断のもと用法用量を変えて服用します。
リスパダールの飲み方や副作用
成人の統合失調症治療薬として広く使われきたリスパダールですが、小児期の自閉症スペクトラム障がい(ASD)の易刺激性に対しては子どもの体重によって飲み方が定められています。
まず、体重15kg以上20kg未満の子どもは、1日1回0.25mgからスタートして、医師の判断で少しずつ薬を増やしていきます。ただし1日あたりの最大量は1mgです。
体重20kg以上の子どもの場合は、1日1回0.5mgからスタートして、状態を観察しながら増量していきます。ただし、1日当たりの最大量は体重20kg以上45kg未満のこどもで2.5mg、45kg以上のこどもでも3mgまでと定められています。
なお、体重に合わせてどの程度の内服をしていくかは、医師の考え方や子どもの症状に合わせて異なります。一般的に体重10kgにつき0.1mg程度が望ましいといわれています。
リスパダールの副作用は?
リスパダールの主な副作用は過眠傾向や不眠傾向をはじめ手足の震えや不安感、めまいやふらつき、口の渇きやだるさなどがあります。同じ抗精神病薬のエビリファイの副作用と似ています。
エビリファイとリスパダールのどちらがいい?
エビリファイとリスパダールは小児期のASDの易刺激性に使用されるますが、こどもの症状や体質などを考慮したうえで、医師の判断でどちらを選択するかが決まります。こどもによってエビリファイを処方したものの副作用が強かったためリスパダールに変更する、または逆のケースもあるため、どちらがすぐれているかといったものではありません。
まとめ:発達障がいのあるこどもに「エビリファイ」で癇癪がよくなる?リスパダールとの違いや薬の特徴・副作用
こどもの自閉症スペクトラム障がい(ASD)で見られる癇癪や攻撃性といった易刺激性を穏やかにする働きがあるエビリファイ。発達障がいと診断されたこどものなかで、日常的に極度の癇癪やイライラで悩んでいる場合に処方される機会が増えています。
エビリファイは日常生活に支障をきたす症状を改善できるため、放課後等デイサービス(放デイ)など発達支援の施設に通うこどもたちにも服用しているお子さんが少なくありません。実際に通っているお子さんの様子をスタッフに尋ねてみたり、ママ友さんから情報をもらったりするときにも、放デイに通っていると強い味方になります。
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